派遣先均等均衡方式に関するQ&A Part2
2020/02/10
令和元年12月26日に、派遣先均等・均衡方式に関するQ&Aが公表されました。
今回も引き続き、このQ&Aについてご案内致します。
派遣先均等・均衡方式は、食事補助も同一
派遣先均等・均衡方式は、派遣先の通常の労働者の給与だけでなく、例えば給食施設の料金の費用負担においても、均等・均衡を確保しなければなりません。
労使協定方式においても適用される派遣法第40条第3項の福利厚生施設(食堂、休憩室、更衣室)については、派遣先が「利用の機会を与えなければならない」と規定されており、「給食施設の料金」が同額でないという事実のみをもって当該規定に違反することとはなりませんが、派遣先均等均衡方式はそうではありません。
そのため、派遣先は、派遣料金だけでなく食事補助においても考慮が必要となりますので、ご留意ください。
派遣先均等・均衡方式は、退職金も考慮が必要
Q&Aによりますと、『派遣先均等・均衡方式の均衡待遇においては、基本的に、全ての待遇が含まれるものであり、退職手当についても、派遣先の通常の労働者との間で均衡を確保する待遇の対象となる。』と記載があります。
平成30年12月28日に発表された厚生労働省告示第 430 号(いわゆる「同一労働同一賃金ガイドライン」)には、原則となる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められるとのみなされているだけで、これまで具体的な指針は出ていませんでした。
果たして、派遣先・就業場所が変わる頻度が高い派遣社員において、退職手当の均等・均衡を図ることは、できるのでしょうか?退職金制度を導入している企業は、多くが勤続3年以上の従業員に支給する規定になっていますが、そこで問題です。
「派遣元との勤続年数は3年だが、現行の退職金のある派遣先は1年で終了した場合、会社は派遣社員に退職手当を支払う必要があるのか?」
派遣先均等・均衡方式の退職手当については、労働者派遣事業関係業務取扱要領(※ 2020 年4月1日施行版)にも言及されていませんが、『「職務の内容及び配置の変更の範囲」(人材活用の仕組み、運用等)が派遣先に雇用される通常の労働者と異なっていた期間があっても、その期間まで「全期間」に含めるものではなく、同一となった時点から将来に向かって判断するものである。』という考え方を類推適用すると、同一の派遣先で支給要件を満たして退職した場合に、退職金の支給が生じることになります。
とすると、勤続3年以上が退職金の支給要件の派遣先は、同一の派遣先で3年以上勤務しなければ、退職金は支払わなくてよいことになります。
それでは、同一の派遣先(退職金制度有)で3年以上勤務したが、抵触日を迎え、雇用安定措置として他の派遣先(退職金制度無)で勤務することになった場合、どのように考えるのでしょうか?
派遣社員としては、退職事由が発生していないため、退職金を受給しません。
退職金制度のある派遣先で働いても、次の退職金制度の無い派遣先で退職に至った場合、退職金はどうなるのか?
私見ですが、退職金制度のある会社で退職金の支給要件を満たした場合、派遣先が変わる時点で本来もらえる額の退職金を一旦プールしておき、派遣社員が実際に退職した場合に支給するという流れが自然だと思います。
また、退職金制度がある派遣先で就労する場合は、労使協定方式に習い、前払退職金として毎月の給与に上乗せして支払うことも一つの手段です。
いずれにしろ、派遣社員が納得できるよう十分に議論することが大切です。
派遣先均等・均衡方式の場合の留意点
派遣先均等・均衡方式は、ご存知のとおり派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇が図られていることが必要です。
それでは、従来同じ派遣先で時給1500円支給していた派遣社員に対し、今年の4月以降は派遣先均等・均衡方式を採用し、派遣先の通常の労働者と均等・均衡を考慮して時給1400円とするのはOKか?
答えはNOです。
同一の派遣先・同一の職務内容に従事しているにもかかわらず、派遣先均等・均衡方式を採用したことだけをもって時給が下がるわけですので、不利益変更に該当します。これは、
労働者派遣事業関係業務取扱要領(※ 2020 年4月1日施行版)にも、『派遣先に雇用される通常の労働者との均等・均衡を考慮した結果のみをもって、当該派遣労働者の賃金を従前より引き下げるような取扱いは、法第30条の3の趣旨を踏まえた対応とはいえず、労働契約の一方的な不利益変更との関係でも問題が生じうる。』とされています。(労使協定方式と考え方は同じですね。)
派遣先均等・均衡方式は、何かと規制の多い労使協定方式とは異なり、派遣先の制度に左右されることが多いように思われます。
また、派遣元は派遣先の内情を熟知しているわけではないため、派遣先の情報を信じるしかありません。
それゆえ、派遣社員の待遇が不安定になる可能性は高いと危惧されます。
派遣先・派遣元双方において、派遣法の理解を深めることは喫緊の課題です。
執筆者紹介
吉田 彩乃 社会保険労務士法人ザイムパートナーズ
大学在学中に社会保険労務士試験合格。一般企業にて人事労務職を経験後、ザイムパートナーズに入所。現在は、副代表に就任し、派遣会社をメインに労務相談、就業規則、教育訓練、派遣許可・更新申請等に関するコンサルティング業務を担当。
社会保険労務士法人ザイムパートナーズ