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変わる時間外労働の上限規制、働き方改革施行後はどうなる?

2019/03/25

上限規制が告示から法律へ格上げされた。

2019年4月1日より時間外労働の上限規制がスタートします。
 
中小企業においては2020年4月1日からのスタートとなるため、もう1年猶予期間があるわけですが、今回の上限規制は、労働基準法の大改正とも言えるものです。
 
今まで(2019年3月)までは、過重労働ということを別にすれば、下記2つの要件を共に満たす限りは、残業時間が何時間でもそれ自体は法的に許容されていました(罰則がない)。
 
行政指導である告示上限はあったものの、法としてそれを強制できたわけではなかったのです。

  • 36協定に記載された時間外労働の範囲内の残業
  • 労働基準法37条に定める割増賃金が適正に支払われている

今回の上限規制は、その告示上限を強制力のある法律に格上げし、さらに具体的な運用を定めたものと言えます。
 
協定に記載できる時間外労働そのものに制限を設け、一定時間を超えることを絶対的に認めないというものです。
 
極端なことを言えば、今までは割増賃金を適正に支払えば、36協定に記載された時間が限度とはいえ、特別条項に記載する時間には制限がありませんでした。
 
残業時間そのものは指導を受けることはあっても法的に問題とは言えなかったのですが、今回は残業させること自体に規制が入ったわけです。

 

残業をしてもらうには36協定が必須。改正後の運用を知ろう。

ケースとしては、次の3パターンが考えられます。

  • ①36協定の提出なし。
  • ②36協定の提出はあるが、特別条項の記載がない。
  • ③36協定の提出があり、特別条項の記載がある。

 

①36協定の提出なしの場合

①のケースだと、労働基準法の原則どおり、いわゆる法定労働時間を超えて仕事をさせることや、法定休日には仕事をさせないという扱いになります。
 
いわゆる1日8時間、週40時間内の勤務、毎週少なくとも1回の休日という原則内での勤務以外はできません。つまり、法定労働時間を超える勤務という概念がないわけです。
 
中小企業においては、36協定の存在自体を知らない(または無視している)ケースもいまだに見受けられます。
 
そもそも36協定を労働基準監督署に提出していない時点で、法定労働時間を超える残業をさせることは一切できません。
 
ここは今までもルールは同じです。残業イコール36協定ありき、となることを再認識しましょう。
 
ちなみに協定を労働基準監督署に届け出ずに残業(法定時間外の労働)をさせた場合は、労働基準法違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

 

②36協定の提出はあるが、特別条項の記載がない場合

②のケースでは、月45時間以内(年360時間までの年間上限もあり。休日労働は含めない)の残業なら、36協定に記載された時間内についてはOKとなり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができなくなります。
 
この取り扱いも上限規制の適用前の(今まで)と同じです。

 

③36協定の提出があり、特別条項の記載がある場合

そして臨時的な特別の事情を記載したケースが③となります。
 
いわゆる特別条項付きの36協定を提出することで、月45時間を超える残業が制限付きではありますが可能となります。
 
ただし、残業時間の管理は非常にシビアになります。
 
③のケースでは、下記のA~Dを全て満たさなければ違法となります。

    A. 時間外労働の合計が、年720時間以内である。
    B. 時間外労働と休日労働(※1)の合計時間が、月100時間未満である。
    C. 時間外労働と休日労働の合計時間が、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」
    「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」が全て1月当たり80時間以内である。
    D. 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6回(※2)まで。

    ※1.労働基準法上の法定休日における勤務に限定されます。
    ※2.特別条項を適用する回数を記載します。具体的な月の記載は求められていません。

繰り返しますが、残業手当を払えばOKというわけではなく、上限を超えた残業そのものをさせてはいけません。
 
つまりA~Dの一つでも抵触した残業は一切認められないので、毎月の勤怠時間の管理が最重要となりますし、Cの要件があるため、その月だけの時間で判断すれば良いというわけではありません。
 
連続した2~6ヶ月での平均を常に把握できる勤怠システムがないと管理は難しいかもしれません。
 
例えば、次のような残業はアウトになります。

3ヶ月目でCに抵触するためです。協定を届けていなかった場合と同様に抵触した時点で6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになります。

 

派遣会社が知っておくべき、上限規制のポイント

なお、今回の上限規制の適用時期には経過措置があります。
 
2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以後の期間のみを定めた36協定に対して上限規制が適用されます。
 
2019年3月31日を含む期間について定めた36協定については、その協定の初日から1年間は引き続き有効となり、上限規制は適用されません。
 
2019年4月1日以後、すべての企業が一律に上限規制の適用を受けるわけではないことも知っておきましょう。

 

また、派遣スタッフについては、派遣先・派遣元どちらの上限規制の適用を受けるのか疑問に思われた方もいると思いますが、結論としては、派遣先での規制が適用されることになります。
 
つまり、派遣先が大企業で2019年4月1日から上限規制を受ける会社であれば、派遣元で雇用されている派遣スタッフも、同じ規制を受けることになります。
 
そのため、中小企業の派遣元会社であっても派遣先次第で、残業時間の上限規制を受けることになります。
 
つまり、派遣スタッフが実際に勤務する場所が基準となります。

 
 

執筆者紹介

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奥田 正名 社会保険労務士法人ザイムパートナーズ

慶應義塾大学商学部卒業後、税理士事務所勤務を経て、1998年独立開業。税理士部門を2005年に、社労士部門を2017年に法人化・代表就任。派遣会社に特化した税理士・社会保険労務士として、派遣会社の設立・消費税の節税プランニング、働き方改革法に沿った派遣会社の運営相談など多面的なコンサルティングを担当。
社会保険労務士法人ザイムパートナーズ

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