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労使協定方式における最低賃金と地域指数はどこで判断すべき?

2019/10/28

製造業減益による派遣業界への影響とは
 

派遣先の事業所と、実際の勤務地は異なる

労使協定方式における賃金(退職金部分を除く)は、①職種別の基準値×②能力・経験調整指数×③地域指数で決まります。
 
地域指数は最低賃金と同じく、その「所属する場所」がどの都道府県にあるかで変動します。
 
この所属する場所ですが、地域指数と最低賃金では、実は定義が異なります。
 
似ているのですが微妙に違う。その違いを理解していないと法違反となってしまう(法の定める賃金より低い賃金を支払ってしまう)ので、今回はその違いを整理してみましょう。
 
先ずは、最低賃金です。派遣スタッフに対して最低賃金法では、13条と18条に派遣スタッフについての規定が記されています。

 

(派遣中の労働者の地域別最低賃金)
第十三条 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)第四十四条第一項に規定する派遣中の労働者(第十八条において「派遣中の労働者」という。)については、その派遣先の事業(同項に規定する派遣先の事業をいう。第十八条において同じ。)の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額により第四条の規定を適用する。

 

この13条に定める「事業場」は、実際に派遣スタッフが就業する(そこで業務を行う、働く)場所となります。
 
実際の就業する場所における最低賃金が派遣スタッフにも適用されるということです。
 
その一方で、労使協定方式における賃金に影響する地域指数は、「派遣先の事業所」がどの都道府県にあるかで決まります。
 
令和元年7月8日に公表されている、いわゆる局長通達本文における一般賃金の説明には、下記の記載があります。

 

「派遣先の事業所その他派遣就業の場所」については(~今回の解説に不要な部分は割愛します~)協定対象派遣労働者が実際に就業する場所ではないこと。例えば、派遣先の事業所が東京都にあるが、協定対象派遣労働者が実際に就業する場所が埼玉県である場合、「派遣先の事業所その他派遣就業の場所」は東京都であること。

 

労使協定方式における賃金を決めるにあたっての地域指数は、実際に就業する場所ではないと明記されています。
 
分かりやすくいえば、事業所単位の抵触日の通知を行う派遣先の事業所のことです。

 

事業所と勤務地が異なるケースは要注意

例えば、派遣先の事業所は埼玉県で、実際の勤務地(就業場所)は東京都としましょう。

 

 

※2019年10月1日時点のものです。

 

この場合、地域指数は埼玉県を選択することになり、そのまま適用すると東京都よりも低い賃金水準になってしまいます。
 
ただし、最低賃金は実際の勤務地である東京都の1,013円となります。
 
埼玉県の地域指数で計算した労使協定方式の賃金 < 実際の勤務地である東京都の最低賃金 となってしまった場合は、派遣法においては埼玉県をベースに計算するが、実際の賃金は東京都の最低賃金を下回っていないかを確認する必要があります。

 

この場合には、①職種別の基準値(ゼロ年目の時給)を、③東京都の最低賃金と「読み替え」たうえで、さらに②能力・経験調整指数 を乗ずる計算を行います。
 
③×②で賃金が決定することになります。

 

反対に、派遣先の事業所は東京都で、実際の勤務地は埼玉としたときに埼玉県の地域指数を採用してしまうと、最低賃金はクリアしているが、賃金が派遣法で定める額より低くなってしまうことになります。

 

厚生労働省が公表している、一般労働者と派遣労働者の賃金比較ツール(令和2年度適用版2019年10月20日時点)で実際に試してみると、この「読み替え」がツールでは反映できないので、なおさら注意が必要だと思われます。

 

派遣法における事業所は、雇用保険の適用事業所と考え方は同じです。
 
イメージとしては、雇用保険番号が割り振られている事業所です。
 
雇用保険においても労働者が勤務している場所そのものが適用事業所になるわけではありません。
 
派遣法における事業所の概念は雇用保険法を踏襲していると考えると分かりやすいでしょう。

 

最低賃金ではなく、特定最低賃金の適用となるケースはさらに注意

最低賃金法には、もう1点気を付けることとして、特定最低賃金の存在があります。
 
最低賃金法18条です。特定最低賃金 > 地域別の最低賃金となる場合は、特定最低賃金を下回ることができません。
 
前述の【2】「読み替え」においても、最低賃金とあるのを特定最低賃金に置き換えることになります。

 

第十八条 派遣中の労働者については、その派遣先の事業と同種の事業又はその派遣先の事業の事業場で使用される同種の労働者の職業について特定最低賃金が適用されている場合にあっては、当該特定最低賃金において定める最低賃金額により第四条の規定を適用する。

 

さらに、やっかいなのが特定最低賃金は最低賃金の公表と同時に公表されるものでもありませんし、地域によってその発効年月日もバラバラです。(平成30年はおおむね12月に発効日が定められています)

 

最低賃金にように全国一律に、同じ日に効力が生ずるものではないため、特定最低賃金の適用業種に派遣する場合は注意が必要となります。
 
多くの派遣会社では、最低賃金を大きく上回る時給を支給しているケースが多く、仮に間違いがあっても結果的には法定を上回っているということも多くなるとは思いますが、労使協定方式の正しい運用をするうえで最低賃金と地域指数の取り扱いは気をつけてほしいところです。

 

執筆者紹介

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奥田 正名 社会保険労務士法人ザイムパートナーズ

慶應義塾大学商学部卒業後、税理士事務所勤務を経て、1998年独立開業。税理士部門を2005年に、社労士部門を2017年に法人化・代表就任。派遣会社に特化した税理士・社会保険労務士として、派遣会社の設立・消費税の節税プランニング、働き方改革法に沿った派遣会社の運営相談など多面的なコンサルティングを担当。
社会保険労務士法人ザイムパートナーズ

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