2020年から施行される同一労働同一賃金のガイドラインとは?
2019/03/06
同一労働同一賃金のガイドラインとは、
・正社員(無期雇用フルタイム労働者)(以下、「正社員」といいます)
・非正規雇用労働者(派遣労働者・有期雇用労働者・パートタイム労働者)
上記の間で、待遇差が存在する場合に、
・どのような待遇差が不合理なものか?
・どのような待遇差は不合理なものでないものか?
この原則となる考え方と具体例を示したもので、厚生労働省告示第430号(2018年12月28日)にて定められた指針をいいます。
非正規雇用労働者は、正社員等以外の幅広い雇用形態の方を指しますが、本稿では、特に有期雇用契約の派遣労働者の同一労働・同一賃金についてご案内したいと思います。
目次
同一労働同一賃金の根拠条文
同一労働同一賃金の根拠条文についてご紹介します。
有期雇用契約の派遣労働者に適用される同一労働同一賃金は、下記の規定が根拠条文となります。
・労働者派遣法改正後条文第30条の3(不合理な待遇の禁止等)
・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、「短時間・有期雇用労働法」といいます)改正後条文第8条(不合理な待遇の禁止)及び第9条(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
適用時期は、2020年4月1日(中小事業主は、短時間・有期雇用労働法のみ2021年4月1日)から適用します。
ここで注意したいのは、労働者派遣法には、中小事業主の経過措置がなく、一律に2020年4月1日から新法が適用されるということです。
この規定に違反した場合、都道府県労働局長による助言・指導及び勧告の対象になります。
派遣労働者の賃金はどうやって決めるの?
有期雇用契約の派遣労働者の賃金の決定は、
①派遣先均等・均衡方式(原則)
②労使協定方式(例外)
の2種類があります。
なぜ2種類あるのかといいますと、①の場合、派遣先が変わるごとに賃金水準が変わり、派遣労働者の所得が不安定になることが想定され、労働者派遣法の目的である派遣労働者個人の段階的・体系的なキャリアアップ支援と不整合な事態を招く恐れがあるためです。
それでは、二つの制度について、ご説明いたします。
「派遣先均等・均衡方式」について
派遣先の正社員等と比較して、業務の内容及び業務に伴う責任の程度(総称して「職務内容」といいます)、及び配置の変更の範囲、その他の事情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして不合理な相違を設けることを禁止するものです。
この方式を採用する場合は、派遣先に次の情報を提供してもらう必要があります。
※この情報提供が無いと、労働者派遣契約を締結できません。
- ①比較対象者の職務の内容、配置の変更の範囲、雇用形態
- ②比較対象者を選定した理由
- ③比較対象者の待遇(給与・手当等)のそれぞれの内容
(昇給、賞与その他主な待遇が無い場合は、その旨を含む。) - ④比較対象者の待遇のそれぞれの性質・目的
- ⑤比較対象者の待遇のそれぞれを決定するにあたって考慮した事項
「労使協定方式」について
同種の業務に従事する一般の労働者と比較して、職務内容及び配置の変更の範囲、その他の事情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして不合理な相違を設けることを禁止するもので、労使協定を締結した場合に限り、採用できる賃金決定方式です。
労使協定には、次の事項を定める必要があります。
- ①対象派遣労働者の範囲
- ②賃金の決定方法(次のア及びイに該当するものに限る。)
ア 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上の賃金額となるもの
(賃金以外の手当(通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当)を除く。)
【職種ごとの賃金、能力・経験、地域別の賃金差をもとに決定】
※職種ごとの賃金等については、毎年6~7月に通知予定
イ 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に賃金が改善されるもの
⇒昇給制度が必要 - ③派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定
⇒評価制度が必要 - ④派遣労働者の賃金以外の待遇の決定方法が派遣元正社員等(派遣労働者除く)の待遇との不合理な相違は禁止
- ⑤派遣労働者に対してキャリアアップに資する教育訓練を実施すること
但し、上記②~⑤として労使協定に定めた事項を遵守していない場合や公正な評価に取り組んでいない場合は、原則(派遣先均等・均衡方式)が適用されるため、注意が必要です。
このように、労使協定方式を採用する場合は、客観的な評価に基づいた制度や賃金テーブル等の昇給制度が必要になります。2020年施行労働者派遣法改正に向け、今から賃金制度や人事評価制度の作成・見直しをすることをお勧め致します。
また、労使協定方式を採用した場合でも、派遣先から以下の情報を提供してもらう必要があります。
※この情報提供が無いと、労働者派遣契約を締結できません。
- ①派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者に対して、業務の遂行に必要な能力を
付与するために実施する教育訓練 - ②給食施設、休憩室、更衣室等の福利厚生施設
具体的な待遇の考え方
派遣先均等・均衡方式の場合
①基本給(昇給含む)
派遣先に雇用される正社員等と同一の能力又は経験を有する派遣労働者には、能力又は経験に応じた部分につき、派遣先に雇用される正社員等と同一の基本給(昇給)を、違いがあれば、違いに応じた基本給(昇給)を支給しなければならない。
ガイドラインでは、派遣先の正社員等が管理職となるためキャリアコースの一環として、派遣労働者と同一の職務内容に従事している場合や就業の時間帯や就業日が土日祝日や否か等の違いにより、基本給に差がある場合は、問題とならない例として挙げています。
②賞与
派遣先に雇用される正社員等と同一の貢献である派遣労働者には、貢献に応じた部分につき、派遣先正社員等と同一の賞与を、違いがあれば、違いに応じた賞与を支給しなければならない。
ガイドラインでは、派遣先の正社員等に派遣先の業績等へ貢献がある場合に賞与を支給しているにもかかわらず、派遣労働者に賞与を支給していない場合は、問題となる例として挙げられています。
③手当
役職手当や特殊作業手当、特殊勤務手当、精皆勤手当、時間外労働手当等の割増率、通勤手当・出張旅費、食事手当や地域手当等においても、派遣先の正社員等と同一の支給を行わなければならないとされています。
④福利厚生・教育訓練
福利厚生施設の利用や転勤者用社宅、慶弔休暇や健康診断に伴う勤務免除・有給保障は、派遣先正社員等と同一の利用・付与を行わなければならず、病気休職や法定外の有給休暇についても、派遣就業が終了するまでの期間を踏まえて取得を認めたり、付与を行う必要があります。教育訓練や安全管理に関する措置・給付においても同様です。
労使協定方式の場合
賃金については、前述のとおりです。また、福利厚生施設の利用は派遣先の正社員等と同一の利用を認めることは、派遣先均等・均衡方式の場合と同じですが、他の転勤者用社宅、慶弔休暇や健康診断に伴う勤務免除・有給保障や病気休職等は派遣元の正社員等との比較が求められます。
まとめ
以上のとおり、派遣先均等・均衡方式を利用する場合は、派遣先の比較対象者の待遇のみならず、賃金規程や賞与規程、就業規則等も入手しないと適正な同一労働同一賃金を実行できないということがわかります。
また、労使協定方式を採用する場合も前述のとおり関連規程の整備等が必要です。
いずれの方式を採用するにしても、同一労働同一賃金対策は、一朝一夕には完成しないことがわかります。
派遣労働者の賃金を決定する重要な事項ですので、慎重に進めることをお勧めいたします。
執筆者紹介
吉田 彩乃 社会保険労務士法人ザイムパートナーズ
大学在学中に社会保険労務士試験合格。一般企業にて人事労務職を経験後、ザイムパートナーズに入所。現在は、副代表に就任し、派遣会社をメインに労務相談、就業規則、教育訓練、派遣許可・更新申請等に関するコンサルティング業務を担当。
社会保険労務士法人ザイムパートナーズ