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労使協定方式とキャリアアップ教育訓練の関係とは

2019/09/17

製造業減益による派遣業界への影響とは

2020年4月1日より、労働者派遣法が改正されます。今回は、労使協定方式を採用した場合のキャリアアップ教育訓練の関係について考察しました。

 

改正法とキャリアアップ教育の関係

キャリアアップに資する教育訓練は、2015年9月30日の改正労働者派遣法施行により、すべての派遣会社において、派遣従業員へのキャリアアップ教育を義務付けています。
 
既に、義務付けられているにもかかわらず、なぜ労使協定方式の要件になっているのかと疑問に思われた方も多いかもしれませんが、実は労使協定方式のみならず派遣先均等・均衡方式においても義務とされています。
 
その根拠が、同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)に示されています。

 

第4の5(1)〈派遣先均等・均衡方式〉
なお、労働者派遣法第 30 条の2第1項の規定に基づき、派遣元事業主は、派遣労働者に対し、段階的かつ体系的な教育訓練を実施しなければならない。

第5の3(1)〈労使協定方式〉
なお、労働者派遣法第 30 条の2第1項の規定に基づき、派遣元事業主は、協定対象派遣労働者に対し、段階的かつ体系的な教育訓練を実施しなければならない。

 

どちらも義務付けられていることは同じですが、実務面からすると対応が異なります。
その理由を次項でご説明いたします。

 

労使協定方式でのキャリアアップ教育

労使協定方式は、派遣従業員の賃金を同種の業務に従事する一般労働者の賃金相場に合わせるだけでなく、派遣従業員の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定することという要件があります。
 
公正な評価に基づき賃金決定をするためには、キャリアパスの明確化、等級制度の導入、職能要件・職務要件の整理、賃金テーブル、評価制度の導入等が必要となります。
 
これらの客観的な評価に基づき賃金決定されていることが派遣従業員に説明できないと、公正な評価とは言えないからです。
 
しかしながら、現状をこれらの賃金テーブルに当てはめるだけでは不十分です。
 
理由は、労働者派遣法が求めるキャリアアップに資する教育訓練が形骸化するおそれがあるからです。
 
労働者派遣法は、教育を行うことにより、派遣従業員のキャリアアップを図ることを目的としているため、この部分を見落とすわけにはいきません。
 
等級制度や評価制度を設けるのであれば、以下のように教育を行ったことにより、どのように処遇アップしていくのかということを関連付ける必要があります。

 
同一労働同一賃金
 

その結果が、「職務内容等の向上があった場合の賃金の改善」に繋がります。

 
同一労働同一賃金
 
同一労働同一賃金
 

不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル~改正労働者派遣法への対応~より抜粋

 

派遣先均等・均衡方式でのキャリアアップ教育

派遣先均等・均衡方式は、派遣先の正社員との均等・均衡を図る仕組みのため、派遣従業員の賃金や待遇は、派遣先の人事制度により左右されます。
 
また、一般に賃金水準は大企業であるほど高く、小規模であるほど低い傾向にはありますが、職務の内容の難易度は会社の規模に比例しているわけではありません。
 
派遣先の変更により、職務内容の難易度は上がったが、賃金は下がったというケースも皆無ではありません。
 
その中で、教育訓練を行うことにより、どのようにキャリアアップ(主に処遇アップ)を図れば良いのかと疑問が残ります。
 
さらに、派遣元で行うキャリアアップ教育の内容と派遣先が求める能力が合致せず、派遣従業員のキャリアアップに結びつかない可能性もあります。
 
そのため、どのようなスキルを身に付ければ処遇向上に繋がるかを個別にヒアリングし、教育訓練内容に反映させる必要があります。
 
このような場合は、派遣先と共同で教育訓練計画を立て、実行していくことが望ましいでしょう。

 

まとめ

以上において、労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の場合のキャリアアップ教育について記載しましたが、私個人の意見としては、労使協定方式を採用した場合の方が、派遣従業員の雇用の安定及び労働条件の向上により福祉の増進を図ることができるのではないかと思われます。
 
その理由は、派遣先の賃金水準が高く、人事制度も確立されている派遣先はともかく、評価制度や賃金テーブル等客観的な指標に基づく賃金制度が無い場合は、注意が必要です。
 
会社によって、前職の処遇を考慮して給与を決定する場合や客観的な物差しが無く賃金が決定される会社の場合、派遣従業員の賃金はどのように決定されるのか、派遣従業員から処遇について説明を求められた場合、雇用主である派遣会社はどのように説明すればよいのか、納得が得られる説明ができるのか、疑問が残ります。
 
確かに比較対象者と均等・均衡は取れていても、昇給の基準、賞与の基準が明確でないと、説明義務を果たすことは難しいと思われます。
 
現在の法律では、正社員の賃金決定の基準や評価の基準などは会社の裁量に委ねられており、明確な基準が無くても違法性はありません。
 
そのような曖昧な基準の賃金水準を派遣従業員の処遇に結び付けるのは、複雑な思いがします。

 

執筆者紹介

執筆者画像

吉田 彩乃  社会保険労務士法人ザイムパートナーズ

大学在学中に社会保険労務士試験合格。一般企業にて人事労務職を経験後、ザイムパートナーズに入所。現在は、副代表に就任し、派遣会社をメインに労務相談、就業規則、教育訓練、派遣許可・更新申請等に関するコンサルティング業務を担当。
社会保険労務士法人ザイムパートナーズ

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