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労使協定方式の留意点~不利益変更となる場合とは?~

2019/11/07

製造業減益による派遣業界への影響とは

来年2020年4月1日より改正される労働者派遣法について、今回は、労使協定方式の留意点についてご案内致します。

不利益変更となる3つのパターン

労使協定方式の導入にあたり留意すべきは、労働条件の不利益変更とならないようにすることです。
 
労働者派遣法だけ考えれば、「一般賃金+通勤費+退職金相当額」さえ支払えばOKのように見えますが、そう単純な話ではありません。
 
「派遣法が改正されたから、一般賃金に合わせるために基本時給を下げます」
「退職金制度を新設したので、基本時給を下げます」
「基本時給を下げ、通勤費を支給します」
 
あなたなら納得しますか?
 
賃金の不利益変更は、派遣社員の生活に直接影響するものなので、慎重に進める必要があります。
 
ここでは、代表的な3つの事例を挙げます。

 

①現在の賃金を下げ、一般賃金に合わせる

例えば、現在の基本時給1,300円である派遣社員に対し、来年4月以降は一般賃金に合わせ基本時給を1,200円にするパターンです。(通勤費は実費支給)
 
局長通達が示す一般賃金は最低基準です。改正により従前の賃金を当然に引き下げてしまうと不利益変更の問題が生じます。

 

派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金(以下「一般賃金」という。)の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること

 

職種ごとにクリアすべき賃金水準はありますが、労働条件を引き下げてまで合わせなさいという意味ではありません。以下は派遣先均等・均衡方式に関する記載ですが、労使協定方式においても同様のことが言えます。

 

労働者派遣事業関係業務取扱要領 ※ 2020年4月1日施行版第7 4(9)ハ
派遣先に雇用される通常の労働者との均等・均衡を考慮した結果のみをもって、当該派遣労働者の賃金を従前より引き下げるような取扱いは、法第30条の3の趣旨を踏まえた対応とはいえず、労働契約の一方的な不利益変更との関係でも問題が生じうる。

 

②現在の基本時給を下げ、退職金を支払う

労使協定方式は、退職金においても基準を示していますが、これも注意が必要です。
 
例えば、現在の基本時給が1,300円の派遣社員に対し、退職金制度を導入するため、現在の時給を引き下げる場合は、不利益変更に該当します。

 

現在の基本時給 1,300円
来年4月以降の基本時給 1,270円 勤続3年で退職した場合 0.8月分支給(自己都合)
※いずれも通勤費は実費支給

 

上記の例は、明らかに不利益変更です。

 

基本時給1,270円 ≧ 一般賃金の基本給・賞与相当
退職金月数0.8月 ≧ 一般の労働者の退職手当制度相当

 

労使協定方式の基準だけを見れば、個々の要件を満たしており問題無いように見えますが、基本時給が引き下げられたことにより、所定労働部分はもちろん割増賃金も引き下がることになります。
 
事例で示すと一目瞭然です。

 

(従前) 基本時給1,300円×173時間+1,300円×1.25×20時間=257,400円
(改定後) 基本時給1,270円×173時間+1,270円×1.25×20時間=251,460円(5,940円減額)

 

しかも、退職金の支給対象を「勤続3年以上勤務した者」とした場合、勤続3年未満で退職した派遣社員には支払われません。
 
派遣社員の退職は自己都合退職だけでなく、派遣契約や派遣会社側の事情で雇止めされることも多々あります。
 
そのため、退職金制度を導入するのであれば、基本時給を減額することの無いよう留意する必要があります。

 

③現在の基本時給を下げ、賞与制度を設ける

一般賃金が基本給と賞与・手当が含まれた金額であるのなら、派遣社員にも賞与規定を新設しようという考え方もあると思います。
 
賞与規定を設けること自体何ら問題は無いのですが、基本時給を下げるとなると話は別です。

 

労使協定方式は、「一般賃金≠基本時給」のため、極端な例を挙げますと、基本時給は最低賃金に、残りの部分を賞与として支給するという考え方も出てきます。
 
ですが、これも派遣社員の賃金の総額を実質的に引き下げることになるため、不利益変更となります。
 
賞与規定を設ける場合でも、基本時給は引き下げないよう留意しましょう。

 

やむを得ず不利益変更を行う場合

労働条件の不利益変更は原則できませんが、やむを得ず変更が必要な場合もあります。
労働条件を適法に不利益変更する場合は、次の2つの方法があります。

 

①個別合意により労働契約の内容を変更する方法(労働契約法第8条)
②就業規則による労働契約の内容を変更する方法(労働契約法第10条)

 

①の個別合意により不利益変更を行う場合、対象となる派遣社員一人一人の合意を得る必要があります。
 
但し、合意が得られなかった場合は、不利益変更することができません。
 
②の就業規則による不利益変更は、次の要件を満たす必要があります。
・変更後の就業規則を労働者に周知
・就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものである
 
この要件を満たしていないと裁判等で争った場合に無効となる可能性があります。
 
やむを得ず不利益変更を行う場合は、変更の必要性と不利益の程度を丁寧に説明し、社員の納得が得られるよう努力する姿勢が求められます。
 
金銭的な不利益変更を行う場合は、経過措置も必要でしょう。

 

まとめ

派遣法改正により、多くの派遣会社は苦慮されていると思われます。派遣労働者の処遇を改善すれば求人面・定着率の面では有利だが、派遣料金の交渉で難航する。派遣料金を抑えれば、反対の現象が想定される。他の派遣会社の動きも気になるところです。それを、来年3月末までには決着させないといけません。今後も皆様のお役に立てる情報を発信できるよう努めて参りたいと思います。

 

執筆者紹介

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吉田 彩乃  社会保険労務士法人ザイムパートナーズ

大学在学中に社会保険労務士試験合格。一般企業にて人事労務職を経験後、ザイムパートナーズに入所。現在は、副代表に就任し、派遣会社をメインに労務相談、就業規則、教育訓練、派遣許可・更新申請等に関するコンサルティング業務を担当。
社会保険労務士法人ザイムパートナーズ

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