現在の同一労働同一賃金の対応状況は?(2019/12)
2019/12/26
改正労働者派遣法の施行期日が刻一刻と迫っています。
今回は、労使協定方式における同一労働同一賃金の対応状況について、ご案内致します。
整備完了の目安は2月末日
改正労働者派遣法の施行日は2020年4月1日なので、2020年3月末日までに、すべての整備を完了させていれば良いわけですが、実際はもっと早い段階で整備しておく必要があります。
具体的には、以下の対応が必要となります。
- 職種別、地域別の給与水準の検証
- 賃金テーブル、職務基準書の整備
- 賃金以外の待遇制度の点検整備
- 就業規則、賃金規程、退職金規程の整備
- 評価制度導入(評価規程・評価項目)整備
- 従業員代表者の選出
- 労使協定締結
- 派遣先との料金交渉
- 派遣労働者への労使協定内容と変更後の就業規則の周知
- 派遣先からの情報提供受領(福利厚生施設、教育訓練制度)
- 新様式での4月以降の派遣契約締結
- 新様式の就業条件明示書と派遣時の待遇情報を派遣労働者に交付
労使協定方式を採用する場合は、以上のすべての対応を3月末日までに完了させておく必要があります。
そうすると、少なくとも2月末日には規程類の整備を完了させ、派遣先と4月以降の派遣契約締結、派遣労働者に労使協定内容の周知・説明、就業条件明示書、派遣時の待遇情報などの明示が必要となります。
まだ手付かずの企業様は、年明け早々にでも進めないと間に合わない可能性がありますので、ご留意ください。
労使協定方式を採用する場合は対象者を明確に
労使協定方式を採用する場合は、対象者を明確にする必要があります。
労使協定の対象労働者を「全派遣労働者」とするのは、望ましくありません。
労働者派遣事業業務取扱要領にも、以下の記載があります。
第7の5(6)イその待遇が労使協定で定めるところによることとされる派遣労働者の範囲
全ての派遣労働者を一律に労使協定の対象とするのではなく、派遣労働者の職種、雇用期間の有無等の特性に応じて、労使協定の対象とするか否かを判断すべきものであることから、労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を労使協定に定めることとしたもの。一つの派遣元事業主において、派遣先に雇用される通常の労働者との均等・均衡によりその待遇を決定する者と労使協定によりその待遇を決定する者が併存することはあり得る。
労使協定を締結する場合は、対象労働者を明確にする必要があります。
また、協定締結時点で想定されていなかった職種等を労使協定方式の対象とする場合は、協定期間中であっても従業員代表者との覚書締結等により追加できる旨を労使協定書に盛り込んでおくと良いでしょう。
労使協定対象者を一部除外できるのか
一度労使協定対象と決めたら、容易に外すことはできません。
そもそもの労使協定方式の目的が、計画的な教育訓練や職務経験による人材育成を経て、段階的に待遇を改善するなど、派遣労働者の長期的なキャリア形成に配慮した雇用管理を行うことができることとされているためです。
しかしながら、労使協定方式を貫くことにより、却って派遣労働者の就業機会を減らしてしまう可能性もあります。
例えば、派遣先均等・均衡方式でなければ、派遣労働者が希望する就業機会を提供できない場合が該当します。
その場合は、派遣労働者の合意を得て、待遇決定方式を変えることができる旨を労使協定内容に盛り込んでおくと良いでしょう。
派遣先は待遇決定方式を指定できるのか
最近よく耳にするのが、派遣先による待遇決定方式の指定です。
・労使協定方式を採用した派遣会社としか派遣契約を締結しません
・派遣先均等・均衡方式を採用した派遣会社としか派遣契約を締結しません
果たして、このような指定はできるのでしょうか?
答えはNOです。
待遇決定方式の選択は、派遣労働者の納得感や雇用の安定、キャリア形成等を考慮しながら、派遣元の労使の決定に委ねられているため、第三者である派遣先が介入する余地はありません。
また、派遣先の意思が介入することにより、労使の自由な意思決定が阻害される可能性がありますので、注意が必要です。
2019年12月19日に公表された「改正労働者派遣法のよくあるご質問(公的機関に関するもの)」でも言及されています。
Q1:待遇決定方式を派遣先が決め、一方の待遇決定方式の派遣会社だけ、入札に参加させることは問題ないですか。
A1:待遇決定方式の選択については、派遣労働者の納得感や雇用の安定、キャリア形成等を考慮しながら、派遣労働者の就業の実態をよく知る派遣元事業主の労使に委ねられているものです。
このため、派遣先(国・地方公共団体。以下同じ。)が「労使協定方式を採用する」等を派遣元事業主に通知し、受け入れ予定の派遣労働者の待遇決定方式を一方的に限定することは、改正労働者派遣法の趣旨に反し、適当ではありません。
また、待遇を引き下げることを目的としている場合は、改正労働者派遣法の趣旨に反するものであり、適当ではありません。
さらに、派遣元事業主の選定に当たっては、入札等によって決定することになりますが、入札に当たって、いずれかの方式に限定することは、公正性の確保の観点からも適切ではないものと考えられます。
以上は、公的機関に関するQ&Aですが、民間企業も同様に考えて良いでしょう。
待遇決定方式は、あくまで派遣元の自由意思に基づく決定のため、派遣先は指定できません。
派遣先企業様は、その旨ご留意いただければと存じます。
執筆者紹介
吉田 彩乃 社会保険労務士法人ザイムパートナーズ
大学在学中に社会保険労務士試験合格。一般企業にて人事労務職を経験後、ザイムパートナーズに入所。現在は、副代表に就任し、派遣会社をメインに労務相談、就業規則、教育訓練、派遣許可・更新申請等に関するコンサルティング業務を担当。
社会保険労務士法人ザイムパートナーズ