製造業減益による派遣業界への影響とは?
2019/08/26
日本経済新聞で、製造業では2019年4-6月期の業績が、最終減益となった会社の割合が実に3分の2という記事がありました(2019年7月30日朝刊記事より引用)。
また、翌8月9日の朝刊記事でも上場企業全体でも同じく4-6月期で減益となり、3四半期連続での減益という、景気減速を示唆する記事が発表されました。
この景気環境の不安定さを受け、派遣会社にも影響があるのではないか?と不安視される方もいると思います。
私見ではありますが、どのような影響が考えられるかを解説していきます。
請負業へのシフトは進むのか?
景気減速の兆候はありますが、既に施行が2020年4月と確定している『改正派遣法』により派遣会社版の同一労働・同一賃金がスタートします。
賞与および退職金を考慮した賃金の支給、さらに派遣元の内勤スタッフとの福利厚生の均衡が求められ、派遣スタッフへの人件費上昇は容易に推定され、多くの派遣会社では時給アップが見込まれる可能性が高いといえます。
少なくとも人件費の下方は考えにくいことでしょう。
受け入れ先企業である派遣先が減益となるなか、派遣単価の改善交渉が難しくなると考えると、派遣元としても自らの業態を考えざるを得なくなることも推測されます。
つまり、派遣業ではなく、請負業へのシフトです。
請負業であれば派遣許可を受けるわけではないので、改正派遣法の影響を受けません。
賃金改定は強制されません。
しかし、実際には請負業への転換は限定的になると考えられます。
理由は、多くの派遣先がコンプライアンスを重視する昨今で、安易に請負会社への委託を選択したことで派遣法違反になるリスクを好まないためです。
適切な運営をしていない請負は、偽装請負とみなされるリスクが高く、労働契約申し込みみなし制度の適用を派遣先が強いられるからです。
みなし制度が適用されると、請負側で雇用されていたスタッフを派遣先(委託者)が、直接雇用するという法構成になっています。
いわゆる違法派遣を受け入れる会社は、直接雇用リスクが生ずるわけです。
もちろん、スタッフが派遣先への移籍を拒絶する場合は受け入れする必要はありませんが、通常は派遣法違反となり、その請負会社は営業そのものができなくなる可能性が高く、雇用維持が困難になります。
スタッフは同条件で仕事が変わらないのであれば、派遣先での直接雇用を選ぶことも充分あり得るでしょう。
(実際の派遣スタッフへの時給相場そのものが現時点でも高い状態ではあるので、結果的に影響を受けない派遣会社も相当数あるとは思われます。)
外国人雇用へのシフトは進むのか?
新しい在留資格『特定技能(1号)』が2019年4月より創設されました。
法務省の発表した2019年6月における該当者数は、日本全国で20名とごく僅かではありますが、製造業(素形材分野、産業機械製造業分野、電気・電子情報関連産業分野の3分野に限定)としても、昨今の人材不足を解消する施策として注目を受けています。
今後、拡大していくことは間違いないことでしょう。
ただし、賃金については、外国人労働者であっても日本人と同じ待遇であることが求められます。
企業が減益だからといってコスト削減のために効果があるとは言い難いです。
特定技能という新たな在留資格だからといって処遇を低いものにして良いという特例はありません。
いわゆる日本人並みの賃金水準が求められます。
そのようななかで、業績が悪化しているからといって派遣スタッフの受け入れを止め、特定技能の外国人の直接雇用に大きくシフトするかというと、YESとは言い難いでしょう。
同一労働・同一賃金という考え方がある以上、外国人であっても、日本人と同一の仕事であれば同じ賃金という流れは変わらないわけです。
ちなみに、現行では特定技能者を派遣できる分野(派遣先)は、原則、農業と漁業に限定されています。
派遣会社が製造業に派遣できると勘違いされているケースもいまだにあるようですが、製造業そのものを営んでいる派遣会社(派遣部門と製造部門があるような会社)でない限り、製造業への派遣はできません。
根本的に企業が人材を受け入れなくなるか?
現在の人材不足は好景気という理由だけではなく、生産年齢人口の低下という根本的な構造に拠ることにも起因しています。
そのため、景気減速だから即、雇用の抑制に繋がるとはなりづらいと考えられます。
リーマンショック時のような海外に委託した方がコスト安という時代でもなくなってきました。
製造拠点を国内回帰させる企業のニュースも多くなっています。
つまり、人手不足は恒常化していくと考えられるわけで、製造業が相当な設備投資(人を必要としない体制作り)を急速に進めない限りは、人材の確保を継続する流れは止まらないと考えられます。
つまり、直接雇用であれ、派遣であれ、外国人であれ、常に一定割合を考えて人材をミックスしていくことが想定され、それが企業のリスク対策となると思われますし、逆に高度に生産性が向上した段階では、直接雇用自体が高コストになってしまうとも考えられます。
そのため、派遣会社を含めた適切な『アウトソーサー』が、より求められる時代になると個人的には推測しています。
そのなかで請負部門と派遣部門を共に備え、かつ他社と差別化した独自の売り(USP. Unique Selling Proposition)を持ったハイブリッド型の派遣会社が、真のアウトソーサーとなり、これからも生き残る派遣会社になるのではないかと、将来の派遣会社像を考えています。
執筆者紹介
奥田 正名 社会保険労務士法人ザイムパートナーズ
慶應義塾大学商学部卒業後、税理士事務所勤務を経て、1998年独立開業。税理士部門を2005年に、社労士部門を2017年に法人化・代表就任。派遣会社に特化した税理士・社会保険労務士として、派遣会社の設立・消費税の節税プランニング、働き方改革法に沿った派遣会社の運営相談など多面的なコンサルティングを担当。
社会保険労務士法人ザイムパートナーズ