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「派遣社員、3年勤務なら時給3割上げ」は必須なのか?

2019/08/22

時給3割上げは必須なのか

日本経済新聞で、「派遣社員、3年勤務なら時給3割上げ 厚労省が指針」という記事が発表されました。
 
派遣社員を雇う側、受け入れる側双方に激震が走ったことと思われます。
 
今回は、この記事について解説していきます。

 

記事の根拠は?

2020年4月施行の改正労働者派遣法は、派遣社員の待遇を、①派遣先均等・均衡方式、②労使協定方式のいずれかを選択することを義務付けており、今回の日本経済新聞の記事は、②の労使協定方式を採用する場合のことを表しています。
 
今回の記事は、2019年7月8日に、厚生労働省のHPで、『令和2年度の「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」』が発表されたことを受けて掲載されたものと思われます。
 
「3年勤務なら時給3割上げ」の根拠は、能力・経験調整指数のことを表しています。

 

② 能力・経験調整指数
「能力・経験調整指数」とは、能力及び経験の代理指標として、賃金構造基本統計調査の特別集計により算出した勤続年数別の所定内給与(産業計)に賞与を加味した額により算出した指数である。具体的には、「勤続0年」を 100 として算出したものであり、次の表のとおりとなる。

局長通達本文より引用

 

毎年行われる賃金構造基本統計調査結果に基づき、能力・経験調整指数が決まりますので、来年の局長通達は、上記の指数より変動します。
 
ちなみに、平成29年の賃金構造基本統計調査結果から算出した能力・経験調整指数は、次のとおりです。

 

(参考)

このように、若干の変動があります。
 
労使協定方式を採用する場合は、毎年賃金の見直しが必要であることを念頭に置いておきましょう。

 

3年勤務なら時給3割上げは必須か?

結論から申し上げますと、必須ではありません。
 
協定対象派遣労働者の能力と経験を踏まえつつ、一般労働者の勤続何年目相当に該当するかは、労使で議論して決めることとされています。
 
これは、8月19日に発表された「労使協定方式に関するQ&A」にも掲載されています。

 

問2-8 能力・経験調整指数について、例えば、勤続が5年目の協定対象派遣労働者については、必ず「5年」の指数を使用しないといけないのか。
 
答  能力・経験調整指数の年数は、派遣労働者の勤続年数を示すものではないため、ご指摘の場合に、必ず「5年」にしなければならないものではない。
例えば、職務給の場合には、派遣労働者が従事する業務の内容、難易度等が、一般の労働者の勤続何年目に相当するかを労使で判断いただくこととなる。
なお、待遇を引き下げることなどを目的として、低い能力・経験調整指数を使用することは、労使協定方式の趣旨に反するものであり、適当ではなく、認められない。

 

このように、派遣社員が従事する業務の内容・難易度等が、世間一般の労働者の勤続何年目に相当するかは、個々の判断が必要ということになります。
 
しかしながら、能力・経験調整指数の定義が明確ではないため判断に迷うことも多いと思われます。
 
その場合は、派遣社員が従事する業務の内容・難易度等が派遣先の通常の労働者でいう何年目に相当するかを派遣先にヒアリングするなどして決定することをお勧めいたします。

 

能力・経験調整指数は最終的には勤続20年まで考慮する必要があるか?

上記の能力・経験調整指数は勤続0年から20年までの指数が示されていますが、派遣社員が従事する業務の内容・難易度等により上限を設けることは可能です。
 
例えば、単純作業の連続で、難易度も上がらなければ、「勤続3年」を上限とすることも可能です。
 
しかしながら、コストを下げることを目的として、低い能力・経験調整指数を使用することは違法となりますので、ご留意ください。

 

通勤手当と退職金も考慮が必要

通勤手当

①実費支給、②時給に72円を上乗せ、いずれかの対応が必要です。
  
派遣社員の通勤手当を時給に含めて支給しているケースも多いと思われます。
 
その場合、現在時給に加算されている通勤手当と比較し、1時間あたり72円を下回っている場合は、不足分を補填する必要があります。

 

また、注意したいのは上限がある実費支給の場合です。

例えば、上限が1万円の場合は、2,480円の補填が必要です。
所定労働時間が8時間×週5日の場合、各月の上限額が12,480円(※)未満であれば、協定対象労働者の通勤手当を12,480円と同等以上とすることが必要。
※ 72円×8時間×5日×52週÷12月 = 12,480円

 

退職金

①退職金制度を導入(※)、②時給に6%上乗せ、③中小企業退職金共済等に給与の6%以上で加入、いずれかの対応が必要です。
 
※局長通達が示す各種調査結果と退職手当制度を比較し、同等以上であることが必要です。
 
派遣会社以外の会社でも、退職金制度が無い会社もあれば、正社員の退職金より高くなるケースもあると思われますが、労使協定方式を採用する場合は必ず支給が必要です。

 

まとめ

改正派遣法は、派遣先均等・均衡方式が原則であるため、例外である労使協定方式には多くの制限が設けられています。
 
導入の際は要件を熟知し、シミュレーションを行うなどの対応が必要となります。
 
改正派遣法施行まで残り僅かです。
 
少なくとも今年中には方針を固めておくことをお勧めいたします。

 

執筆者紹介

執筆者画像

吉田 彩乃  社会保険労務士法人ザイムパートナーズ

大学在学中に社会保険労務士試験合格。一般企業にて人事労務職を経験後、ザイムパートナーズに入所。現在は、副代表に就任し、派遣会社をメインに労務相談、就業規則、教育訓練、派遣許可・更新申請等に関するコンサルティング業務を担当。
社会保険労務士法人ザイムパートナーズ

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