2020年から施行される派遣法改正~労働者派遣契約編~
2019/06/25
2020年4月1日より、労働者派遣法が改正されます。
主な内容は同一労働同一賃金ですが、それに伴い派遣契約書や就業条件明示書などの記載項目や情報提供項目なども変更されます。
具体的にどこが変わるのか、見てみましょう。
目次
労働者派遣契約
改正箇所は、次の4つです。
- ①労働者派遣契約書に「派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度」を追加
- ②労働者派遣契約書に「派遣労働者を協定対象労働者に限定するか否かの別」を追加
- ③派遣先から派遣元への比較対象労働者の待遇に関する情報の提供に係る事項を追加
- ④派遣先の派遣料金の配慮に係る記載を追加
それでは、具体的に見ていきましょう。
①「派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度」とは?
同一労働同一賃金を考慮する上で大切なのは、業務の内容と責任の程度です。
業務の内容と責任の程度が明確でないと、均等待遇・均衡待遇どちらを採用すれば良いかわかりません。
そのため、労働者派遣契約書(個別契約書)にも責任の程度の明記が必要となります。
責任の程度といっても、具体的にどこまで詳細に記載すればよいのか、迷われる方も多いかもしれません。
労働者派遣事業関係業務取扱要領(2020年4月1日以降)によりますと、以下の記載があります。
チームリーダー、副リーダー等の役職を有する派遣労働者であればその具体的な役職を、役職を有さない派遣労働者であればその旨を記載することで足りるが、派遣元事業主と派遣先との間で、派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度について共通認識を持つことができるよう、より具体的に記載することが望ましい。
単に、派遣労働者の役職の有無のみの記載で良いかのように見えますが、この記載のみでは危険です。
役職に就いていない派遣先の正社員と派遣労働者の責任の程度は、本当に同じでしょうか?
トラブルや緊急対応、成果への期待など、異なる場合が多いように思われます。
その判別ができないと、均等待遇(派遣先正社員と同一賃金)とみなされる可能性が高いです。
そのため、比較対象労働者の待遇等に関する情報提供(様式第25号)記載の内容(①権限の範囲、②トラブル・緊急対応、③成果への期待・役割、④所定外労働等)程度の内容は記載しておくことをお勧めいたします。
②「派遣労働者を協定対象労働者に限定するか否かの別」とは?
これは単に、労使協定方式を採用する派遣労働者に限定するか否かを記載すれば足ります。
但し、「派遣労働者を協定対象労働者に限定しない」もしくはその記載がない場合は、派遣先の比較対象労働者の待遇等に関する情報提供(主に賃金等の情報)が必要となりますので、注意が必要です。
派遣労働者が全員労使協定方式を採用している場合は、必ず「派遣労働者を協定対象労働者に限定する」と記載しておきましょう。
③「派遣先から派遣元への比較対象労働者の待遇に関する情報の提供」とは?
こちらは前回の記事(おさえておきたい同一労働同一賃金~派遣先均等・均衡方式編~)でご案内のとおりですが、派遣先均等・均衡方式、労使協定方式いずれかを採用するかによって情報提供の内容が異なります。
★この情報提供が無いと労働者派遣契約を締結できません!
【派遣先均等・均衡方式の場合】
① 比較対象労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲並びに雇用形態
② 比較対象労働者を選定した理由
③ 比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容(昇給、賞与その他の主な待遇がない場合には、その旨を含む。)
④ 比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質及び当該待遇を行う目的
⑤ 比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項
【労使協定方式の場合】
① 派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者に対して、業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練(法第40条第2項の教育訓練)
② 給食施設、休憩室、更衣室(法第40条第3項の福利厚生施設)
④「派遣先の派遣料金の配慮義務」とは?
今回の改正により、派遣先は、派遣労働者の待遇確保のための措置を遵守することができるよう派遣料金について配慮義務が課されました。
この派遣料金の配慮義務は、労働者派遣契約の締結または更新時だけでなく、派遣契約期間中にも求められます。
具体的には、派遣先の定期昇給があった場合や労使協定方式を採用している場合に一般賃金が改定されたことにより、派遣労働者の賃金改定が必要な場合は、派遣料金も改定するよう配慮してくださいということです。
なお、派遣元から要請があるにも関わらず、派遣先が派遣料金の交渉に一切応じない場合や、派遣労働者の賃金を確保するために必要な額を派遣先に提示したうえで派遣料金の交渉を行ったにもかかわらず、派遣料金がその額を下回る場合は、配慮義務を尽くしたとは解されず、指導の対象となる可能性があります。
「配慮義務」は「義務」よりは劣りますが、「努力義務」ではありません。
派遣元からの派遣料金の交渉には、誠実に応じましょう。
補足)義務 > 配慮義務 > 努力義務
「義務」は、法律上必ず守らなければならず、これを怠ると行政指導・助言・勧告・命令の対象になり、さらに違反を重ねるなど悪質な場合は罰金又は懲役刑の対象になります。
「配慮義務」は、ある程度の裁量が認められるものの、実施に向けた行動を行うなど「何らかの配慮を行った結果」を出す必要があります。これを怠ると行政指導の対象になる可能性があります。
「努力義務」は、実施することが望ましいものの、現実に実施した結果までは要求されるものではありません。これを怠っても、法的拘束力や罰則はありませんが、努力の姿勢は必要です。
執筆者紹介
吉田 彩乃 社会保険労務士法人ザイムパートナーズ
大学在学中に社会保険労務士試験合格。一般企業にて人事労務職を経験後、ザイムパートナーズに入所。現在は、副代表に就任し、派遣会社をメインに労務相談、就業規則、教育訓練、派遣許可・更新申請等に関するコンサルティング業務を担当。
社会保険労務士法人ザイムパートナーズ