同一労働同一賃金の問題点とは?パートにも賞与支給、時給も上がるって本当?
2019/03/12
同一労働同一賃金の適用は、有期契約労働者、パートタイマー、派遣労働者等、すべての非正規雇用労働者に及びます。
・各待遇の性質・目的にあたる事情が正社員(無期雇用フルタイム労働者)(以下、「正社員」といいます)と非正規雇用労働者と同一であれば、同一の取扱い(均等待遇)
・各待遇の性質・目的にあたる事情が正社員と非正規雇用労働者とで一定の違いがあれば、違いに応じた取扱い(均衡待遇)
上記を行うものとし、非正規雇用労働者であることを理由として、待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならないこととされています。
今回は、パートタイマーの待遇について解説したいと思います。
パートタイマーの時給も上がる?
問題点①:基本給の性質
ガイドラインによりますと、基本給について次のように区分して記載されています。
- 職能要素・・・労働者の能力または経験に応じて支給するもの
- 成果要素・・・労働者の業績または成果に応じて支給するもの
- 勤続要素・・・労働者の勤続年数に応じて支給するもの
正社員の基本給については、上記の要素を勘案して給与を決めることが多いと思います。
果たして、パートタイマーの時給はどうでしょうか?
パートタイマーの時給については、次の問題点が挙げられると思います。
・賃金テーブルが無い(パートタイマーの時給は、個別の雇用契約にて決定)
・賃金テーブルはあるが、世間相場を参考に決定
・扶養の範囲内で働けるように配慮して決定
・最低賃金をベースに決定
以上からわかるように、パートタイマーの時給は、職務内容以外の要素が含まれていることが多々あります。同一労働同一賃金を実現するには、賃金制度を根本的に見直す必要があります。
また、改正短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、「パートタイム・有期雇用労働法」といいます)は、待遇に関する説明義務を課しています。
パートタイマーなど非正規雇用労働者から「正社員との待遇差の内容や理由」などについて求めがあったときは、説明するように、と事業主に義務付けています。
ガイドラインは、「将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的または抽象的な説明では足りず、職務内容、配置の変更の範囲等に照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして、不合理と認められるものであってはならない、とされています。
説明の際は、比較対象となる正社員の賃金規程及び職務内容と比較して、説明する必要がありますので、客観的・具体的に説明できないと「不合理」とみなされる可能性がありますので、注意が必要です。
問題点②:正社員との職務内容の違い
同一労働同一賃金を実現するにあたって、ものさしとなる職務内容ですが、職務内容、責任の程度、職務内容の変動の範囲が正社員とまったく同じというケースは、多くの場合該当しないと思われます。
理由は、日本の正社員の多くは職務限定・地域限定の概念はなく、ゼネラリストとしての採用を前提としているため、キャリアコースの一環として従事させている業務がパートタイマーの職務と同一の内容であったとしても、一概に比較することはできないからです。
また、責任の程度も然りです。
ガイドラインにもそのような場合は基本給に差異が生じても「問題とならない例」として挙げられています。
また、一定の違いがある場合、「〇割以上の差異はOKで△割以上の差異はNG」というように定量的な判断が難しく、ガイドラインにも具体的な記載はなく、判断が難しいところでもあります。
このように、同一労働同一賃金の可否は、個別事情により判断せざるを得ないものですので、ガイドラインをそのまま適用させることは難しいのが現状です。
まずは、雇用形態別の職務評価を行い、それぞれの職務内容・役割・職務レベル等を明確にした上で、賃金を決定することになるでしょう。
その結果として、パートタイマーの時給が上がる可能性もあれば、反対に多く払いすぎていたというケースもあるかもしれません。
賃金に関する重要な事項ですので、慎重に進めることをお勧めいたします。
パートタイマーに賞与も支給しなければならない?
パートタイマーの賞与も、基本給と同様の基準で考える必要がありますので、正社員に賞与制度があるのであれば、パートタイマーも支給する必要があります。
ガイドラインでも、賞与制度がある会社で、短時間・有期雇用労働者には賞与を支給していない場合は、問題となる例として挙げられています。
(問題となる例)
ロ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。
ただし、賞与は、「労務の対価の後払い、功労報奨、生活費の補助、労働者意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るものである」(長澤運輸事件)ため、会社により賞与の性質は異なります。
賞与制度はあるが、支給基準が異なるため支給額に差異がある場合の違法性は、裁判等で解決することになるのでしょう。
まとめ
以上のとおり、パートタイマーの賃金設計は、今後大幅に変わる可能性があります。今回は基本給と賞与をピックアップしましたが、皆勤手当等の諸手当も同様に検討する必要があります。(もちろんパートタイマーなので、所定労働時間に応じ比例した金額でOKです。)
しかしながら、賃金が上がる話だけではありません。
正社員と非正規雇用労働者の待遇格差是正のために、今後は正社員の労働条件の引き下げも検討される可能性があります。
そうなると、正社員の採用活動に支障が出たり、定着率が下がる可能性も否めません。人材不足の時代ですから、より慎重に検討する必要があります。
なお、労働者の待遇を引き下げる場合は、労使の合意が必要です。労使の合意なく、一方的に労働条件を引き下げてしまうと、その変更は無効となってしまいますので、ご留意ください。
執筆者紹介
吉田 彩乃 社会保険労務士法人ザイムパートナーズ
大学在学中に社会保険労務士試験合格。一般企業にて人事労務職を経験後、ザイムパートナーズに入所。現在は、副代表に就任し、派遣会社をメインに労務相談、就業規則、教育訓練、派遣許可・更新申請等に関するコンサルティング業務を担当。
社会保険労務士法人ザイムパートナーズ